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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)1047号 判決 1989年9月27日

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を神戸地方裁判所尼崎支部に差し戻す。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  主文一同旨。

2  主文二同旨。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

第三  証拠<省略>

理由

一  本件訴は、被相続人亡キヌエの遺産である本件各建物から生じた家賃を、相続人の一部である被控訴人健二の妻恵子及び恵子死亡後はその相続人である被控訴人らが賃借人から収受した上擅に費消したことを理由として、被控訴人らに対しその相続分を超えて費消した金員につき、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得に基づく返還請求権を行使するものであるところ、被控訴人らは、右家賃は遺産から生じた収益であるから通常裁判所の手続で審理すべきでなく、遺産分割の対象とすべきものであり、従って、本件訴は不適法であると主張する。

しかしながら、遺産から生じた家賃は、元来遺産とは別個に共同相続人に帰属する共有財産であるから、当然に遺産と同視することはできないが、相続人全員の同意があり、又は異議がない場合に限り遺産とともに遺産分割の対象とすることを妨げないものであるけれども、このような同意等がなされた場合においても、遺産分割の協議が成立し、或いは遺産分割の審判が確定するまでの間は、相続人全員の共有に属することに変わりがないから、相続人の一部の者がその相続分を超えて擅にこれを費消した場合においては、他の相続人は、その者に対し不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得に基づく返還請求権を行使できるものといわなければならない。

そうすると、被相続人キヌエの遺産である本件各建物から生じた家賃が相続人全員の同意等により遺産分割の対象となったと否とに拘わらず、控訴人は、亡恵子及びその死亡後は被控訴人らが右家賃を擅に費消したと主張して被控訴人ら(亡恵子の相続人でもある。)に対し、それぞれの相続分を超えて費消した金員につき損害賠償請求権又は不当利得の返還請求権を行使できるものというべきであるから、そのために提起された本件訴においては、請求の当否について判断することが必要であり、右家賃が亡キヌエの遺産に属することを理由としてこれを却下することは許されない。

二  よって、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条、三八八条に則り原判決を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長久保武 裁判官 諸富吉嗣 裁判官 鎌田義勝)

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